伊勢物語の四季
昔 男がいた。その男は自分の身をいらないものと思ってしまって
「京にはいないでおこう、 東国の方に住むのによい国を探しに行こう」
と言って行った。
前からの友人を1人2人つれていった。道案内もなくて迷って行った。
三河国の八橋というところについた。 そこを八橋というのは
水がクモの足のように分かれて流れているので、
橋を八つ渡していたからね、八橋っていうんだって。
その水辺の木かげに下りて座ってお弁当を食べた。
その沢にかきつばたがとてもきれいに咲いていた。
それを見て一人がいった。
「かきつばたという5文字を句の頭に置いて旅の気持ちを詠め」
といったから詠んだ歌
からごろもをきながら慣れ親しんだつまがいるので、
そこからはるばるやってきたたびを思うことだ。
と詠むと、みんな(妻を都においてきたものだから)
ごはんの上にぼたぼた涙を落として
ごはんがふやけてしまった。
どんどん行って、駿河の国へ着いた。
富士の山を見ると、旧暦五月の末に雪がとても白く降りつもっていた。
とき知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪のふるらむ
(時のしらない山は富士の嶺だ
いったい今いつだと思って子鹿の模様のように雪がふっているのだろうか)