昔、陸奥国で、男、女が住んでいた。男は「都へ帰るつもりだ」と言う。
この女は、とても悲しくて、餞別の宴会だけでもしようと思って、
おきのゐで、みやこ島というところで、酒を飲ませて、詠んだ
おきのゐて身をやくよりも悲しきは みやこしまべのわかれなりけり
(炭の熾きの火で身を焼くよりも悲しいのは 都島べのわかれであることだ)
男は、とりあえず、現状に飽きると、どこかに新天地に行きたいものらしいが、
女はそう簡単にどこへでもついていくわけにはいかない。
そういうとき何を言っても仕方のないことは、惚れてしまった女がいちばんよく知っている。
別に、この世でこの男の他に男がいないわけじゃないが、
信じていた人に、自分が置いて行かれる、
それは、身も焦がされるような、そんな思いだ。
振られるときの気持ちって、そんなもの。
振るほうもつらかったりするときもあるけれど、『・・・しかたがないじゃないか』と心のどこかで思っている。
振られるほうは、一体なんでこんな目に会うのかわからないから、
ひらすら辛い。
振られたときは、精神衛生上から言えば、落ち込んだときの元気なフリは後遺症が怖いから、
「・・・そして私は中島みゆき」とかなんとか言いながら、
ずずんと落ち込んで、「ひとり上手」など暗い歌を歌うのが、お勧め。
伊勢物語 2002年6月4日作成 2006/09/18 更新 内田美由紀