月の桂

 昔、そこにはいると聞くが、

消息をさえ言うこともできない女のあたりを思っていた。

  目には見て手にはとられぬ月のうちの 

桂のごとき君にぞありける

 (目では見て手には取ることのできない月の中の 

光り輝く桂の木のようなあなたであることだ)

遠くから見ることはできても、手の届かないアイドルのような存在。

あこがれて手に入らないと、とても美しい記憶になる。

 

実際には相手の人はそんなこととは想像さえしていないことかもしれないんですけれどもね。

プレ恋愛状態かな?

 

月の桂は、月に生えていると考えられていた想像上の大木で

古今集には

久方の月の桂も秋はなほもみぢすればや照りまさるらむ(秋歌上・ただみね)

という歌もある。

この段の歌自体も、元の歌が万葉集(巻四)にある。

目二破見而手二破不所取月内之楓如妹乎奈何責

妹をいかんせむ、ということは万葉集のほうが積極的なのかしら?

   伊勢物語   2002年5月23日作成 内田美由紀