昔、風流人(のもとへ)、仲が絶えてしまった人の元から(詠んで寄越した歌)

 おもひつゝぬればや人のみえつらん ゆめとしりせばさめざらましを

(想いながら眠ったのであなたが〔夢に〕見えたのでしょうか

夢と知っていたら目覚めなかったのに)

 

阿波国文庫本による

これは、有名な小野小町の歌を利用した歌語りで、普通の伊勢物語には入っていない。

小野小町の歌は伊勢物語に何首か入っているが、

史実的には業平とは年齢的に時代があわないと言われている。

伊勢物語には万葉の歌が入っているし、業平死後の話もあるのだから、

時代があわないこと自体は、別にどうということはないが、

その段が小町歌だけだと普通本には入らないようだ。

 

昔は

夢に見たら、その夢に出てきた人が自分のことを想っていると考えられてきたが

現在、心理学的にはその逆で、夢を見ている人がその人を想っていると考えられている。

深層心理で、普段は認識していないことも夢に見ることがある。

初恋でふられる直前に、好きな人が夢に出てきて、手を振ってさよならしたとか

ずっとつきあっていたのに結婚の話を断わられる直前、

夢の中で二人でボートに乗ってきれいな湖にいたのに、ボートが沈んで溺れる夢を見たとか、

人間は結構普段気がついていなくても、知らない間に認識しているものだと思う。

不思議なことに、すごく思っていたのに

ほとんど夢に出てこない人がいた。

「いつもみてるよ」と言って、毎日どこかで見ていて、会えない日は帰宅確認電話が入る。

誕生日に真冬のチューリップを一輪。

でも、話をする機会がなかったので、結局何を考えているのかわからなかった。

だから深層意識も夢の出しようがなかったのかもしれない。

 

よく知っている相手だと、普通は、ああ言ったらこう言うだろうと多少の見当はつく。

でも、何年も付き合った恋人でも友人でも

必ずしも自分の予想通りの反応が返ってくるとは限らない。

夢の中ですら、自分の予想を裏切って、その人らしい言動をするから、

もしその人が会えない人なら、

たとえ夢であっても、いや夢だからこそ、ずっとそのままいたいという気持ちは、誰でも持っているのでは。

 

 

  伊勢物語   2002年12月14日作成 内田美由紀