伊勢物語の季節  晩夏


 昔、男がいた。ある人の娘で大事にされていた人が、
何とかしてこの男と結婚したいと思っていた。
 口に出していうことが難しかったのだろうか、
病気になって死にそうな時になって、
 「あの人に会いたいと思っていたの」と
言ったのを、親が聞きつけて、泣く泣く男に言ったので、
男はあわててやってきたけれど、娘は死んでしまったので、
男は家にずっとこもっていた。
 時は水無月(旧暦6月、今の7月)の末、とても暑いころに、
夕方は笛を吹いたりして過ごし、夜更けに、少し涼しい風が吹いた。
蛍が高く飛び上がる。この男は、横になって見ながら、歌を詠んだ。
  飛んでいく蛍よ もし雲の上まで行くのだったら 
  秋風が吹いているよ(秋風に乗ってあの子の魂をつれてきて)と
  雁に告げてほしい

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  なかなか暮れない夏の日を暮らして もの思いにふけると
  これということもなく 何となく悲しい

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